CGコーナー 続・孕み草紙 SCENE3
通称”クイーンズブレイド同人二期”こと
続・孕み草紙を連載するコーナーです。

ページごとに書式が統一できていなくて申し訳ないのですが
このコーナーは上から下へと順に読む形にしていきます。

基本的に全話、全CGをサイトにて公開します。
製品として登録する少し前にはこのコーナーごと削除します。
製品版に大幅な加筆をすることは今のところ考えていませんが
モノクロCGに色を乗せたり、
文章のおかしな所を手直ししたりはする予定です。
ちなみに製品版は、モザイクがキツくなったりもします。


↓是非こちらのボタンから感想などをお寄せください



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SCENE3 オークと見た肉色の夢

3-1

背に翼が生えたように、レイナの快進撃が始まった。
それまでに起きた不手際の連続は一体なんだったのだろう。


いざ礼拝堂の正面に立ち、その威容をレイナは見上げた。
森の中のお堂と聞いて小さな社を想像していたのだけれど、
来て見てびっくり、黒くて巨大な城郭が天に向かってそびえている。
魔界の王でも住んでいそうな、一大建築ではないか。

「よっこいしょ……と!」

重い門を肩で押し開け、埃をくぐって内部に入る。
どこもかしこも地下迷宮と見まがう暗がりで、
狭くて入り組む通路が続いたかと思えば、
唐突な広間の真ん中に螺旋階段が登っていたりした。
いかにも魔が好みそうな、何とも趣味の悪いダンジョンだ。

レイナは松明に火を灯し、闇を切り開いて城内を行く。
松明などいつの間に用意したのか自分でも分からなかったが、
それは実に”どうでもいいこと”だと思った。

たちまち光に導かれ、闇からオークたちが湧いて襲い掛かった。
レイナは剣を閃かせ、片っ端からやっつけていく。
命のやり取りという重さは感じなかった。
そこにはただ勝ち負けだけが存在し、
レイナは勝って勝って勝ち続け、爽快な手柄を積み重ねるのだ。

「やっと調子が出てきたみたいね……
 そろそろ親玉が近い気がするわ!」

そう思えば、そう思った通りの場所に、いかにも悪そうな黒衣の敵が現れた。
何という冴えだろう、私もやれば出来るじゃないかと、
レイナは英雄譚の中に生きるような自分を誇らしく思った。

暗い広間の中を、赤い逆光が照らして映える決戦場だ。
悪の巨魁は仁王立ちでレイナを迎えた。
黒い騎士の甲冑に、黒いフードマントをかぶった剣士であった。
やはり人さらいの元凶はオークではなく人間だったか、
あるいは魔族の類かもしれない。

「人を人とも思わず豚と呼び、私利私欲の贄に供するなど言語道断!
 あなたのような生き方は悪であり、間違っているのだと思い知りなさい!」

高揚する雰囲気の中で、
レイナは頬を上気させながら正義の声明を読み上げた。


……その時、世界がわずかに揺らいだ。
全てが都合良く、全てが上機嫌だった世界の在り方が、レイナの言葉に戸惑っていた。
舞台演劇に例えるならば、背景に流れる楽曲が突然沈黙したような。

レイナは見せ場に水を差された気分で眉をひそめた。
そんな彼女に、黒騎士の方から言葉が掛かった。

「私の生き方は悪なのでしょうか。
 ……間違っているのか。
 生まれてから一度たりとも、そういう事を教わる機会は無かったのです」

「え……?」

レイナは目が覚めたように相手の姿を意識に捉えた。
思えば城に到着してから、彼女はずっと自分しか見ていなかった。

黒いフードの中は真っ暗で、騎士の顔も黒一色としか見えない。
顔があるのかどうかさえ明らかでない。
無機質な声には性別も無く、レイナの眼前には、
深淵なる精神の空洞が立っているように思えた。

「人が豚を飼うように、豚が人を飼ってはいけませんか。
 なぜいけないのだろうか、私にはその理由が分からない……」

それぎり、黒い剣士は黙ってしまう。
レイナは相手の問いに答えようと言葉を探し、ふと別の事を思い出す。
自分は今、何をしている途中であったか。
魔城に乗り込み、悪の長と雌雄を決する今の場面は、
本当にレイナが居るべき正しい場所か。

(私は確か、森にいたはず……)

レイナもまた黙りこくって、しばし自分を見つめ直した。
だが全てを明るく思い出す前に、黒い剣士はレイナの答えを待つ事もなく、
自らの言葉で沈黙を破った。

「――ご無礼を。
 我が身の分際を過ぎた問いでありました。
 不当に中断をした”貴方の物語り”の続きをしましょう。
 さあ思い出して下さい、私は敵だ!」

「くっ! 何を!?」

レイナはかぶりを振って、戦いの構えを取り戻す。
今のは何かの幻術だったか。
許し難い悪を前にして、危うく目的を忘れる所であった。
美闘士は刃の向こうに、倒すべき相手を強く睨んだ。

「ふふはははっ、豚となって飼われてみるが良かろうに!
 食事と住まいの心配もなく、死ぬまで交尾と惰眠を貪る日々だ!
 豚とは何とも幸せな生き物だと見えるのですが!」

先ほどまで深い闇のようだった黒騎士は、
今やギトギトとした下卑な悪意をむき出しにする。
そうだ、討つべき敵とはこう在るべきだ!
レイナは強く剣を握りしめ、雄叫びを上げて迎え撃つ。

「思いっきり笑止千万な勘違いだわ!
 それは私が自分で捨てた生き方よ、
 楽であることと、幸せであることは同じじゃないのよっ!」

正義の名のもとに悪と戦い、これに勝つ。
平穏な日々より大きく見える幸せは、いま目の前に在るではないか。
レイナは精神の快楽に肌を粟立てながら、
黒騎士を相手取って真っ正面から雄々しく剣で打ち合った。

いつしか広間に英雄の交響曲が鳴り響き、
レイナが悪の首を刎ねた瞬間、曲は最高潮に達していた。


--


かくして、オークの人さらい事件は解決を見た。

麦の村には万歳の声が広がり、レイナを讃えて止まなかった。
胴上げをされ、祝杯をぶっかけられるレイナであるが、
彼女は自分の栄華より、巫女たちの喜びに大冒険の甲斐を感じていた。

馬鹿騒ぎに少し離れた宴会場のテーブルで、
村長が一人静かに、うれし涙をハンカチでそっと拭いている。
年老いた小さな肩が喜びに震える、その姿はレイナの心にしみた。
これが戦士という者の目的なんだと、
剣は人を斬るためではなく、守るための道具なんだと理解した。

宴は酒と料理を迎えて、村を挙げてのお祭りへと育っていった。
人々に感謝の言葉でねぎらわれ、また人々は英雄からの言葉を求めた。
レイナは悟ったばかりの戦士の極意をみんなに説いて、
戦うことへの励ましと、正しい戦いについての在り方を語った。

それを聞くや村の青年たちも心機一転。
オークと共存していた時代は終わり、明日からは自分たちが村を守ると誓うのだった。
良き意気に応えて、レイナは男たちへの稽古役を買って出た。
毎日毎日熱心な指導をした成果が実って、
村の自警団はあっという間に一人前の武力を擁した。


……。
この辺りから、レイナの時間感覚は決定的におかしくなった。
勝利の祝宴から何日が、何週間が経っているのか分からない。
だがそれもやはり”どうでもいいこと”だった。

(私はいま、黄金の日々の中にいる。
 これが人生の充実、これが人生の成功なのだから……!)


やがて何かの決まり通りに、レイナは自警団の一人と距離を近づけていく。
レイナより少し年上の、でも気が弱い、甘いマスクの青年だった。

今や住まいになった酒場の二階で、星の降る聖なる夜に、
男と女は生まれたままの裸になった。

「僕もレイナさんのように強くなりたい。村のみんなを守りたいんだ」

でも男の芯を支える自信が足りない。
だからレイナさんに自信を分けて欲しい。僕を男にして欲しいのです。
――愛しています。青年ははっきり、そう言った。

レイナとしては――レイナも彼を愛している。
愛しているということになっている。
実際の心は何も感じず、何も考えていないような気もしたが、
レイナはレールにはまった車輪のように、
正しく定められた愛の道を前進していく。

「ん……ちゅ……」

初めてのキス。
てっきり長年、恋の味がするものだと思っていたが、
実際にはどうしてなかなか、生々しいオスの肉の味だった。
しかしそれが、たまらなく全身に気持ちいい。
子宮がツンと突かれた気がした。
心の愛よりも、体の悦びを満たしていくキスだった。

「ああ……レイナさん、好きです」

二人っきりで言われるたびに、レイナは耳の後ろがぞくぞく震えた。
レイナは照れて真っ赤に俯くが、もっともっと言って欲しかった。

「あ……あの、私……その、初めてで……」
「僕もなんです。
 だから二人一緒に、手探りしながら……」
「ええ……うん……!」

ついに自分にもこういう日が来たのかと、
レイナは男の象徴に熱い視線を送った。

だけど見えない。
ちらっ、ちらっと何度も覗いてみるのだけれど、
そのつど意地悪な角度が邪魔をした。

いつまで経っても見えない”決まり”であった。
レイナは男の一物を見たことが無いのだから、
いくら頑張ってもここでは”正しく見えない”。

それでも何とか必死に、
レイナはペニスというものの形を思い出そうと脳裏を探る。
すると青年の股が急に開いて、
立派なペニスがそそり立って全てを見せた。

(す……すごい。
 これが今から私の中に入るのね……)

本音を言うと、とても怖い。
青年は金髪で体色の薄い白人なのに、
生殖器だけは茶色と呼ぶべき褐色肌で、竿も玉も仰々しい大きさだった。
いつか見た――どこで見たのかは思い出せないが、
オークのペニスにそっくりだった。

「レイナさん……! レイナッ!」

青年がレイナの巨乳を揉みしだきながら、がばっと覆い被さった。
いよいよレイナも女になるのか。
思えばクイーンズ・ブレイドに向かう流浪から始まって、
挫折と成長、そして勝利の人生を歩んで来た。
麦の村という居場所を手に入れ、輝く正義と栄光と、
最後には熱い愛を手にする、完全無欠の物語り。

「ああ……私も愛してるわ!
 え、ええっと……?」

どういうわけか、愛しい人の名前が出て来なかった。
幸せすぎてボケたのだろうか。
あまりにも完成されたレイナの人生は、まるで夢のようだった。


もちろん全ては、魔剣が見せる夢だった。





3-2

ずっちゅ、ずぷっ……ずぷ……
「うあっ……あっ……」

ぐっちゅ、ぱんっ、ぱんっ
「あう、ひぃ……」

礼拝堂に取り残された二人の巫女は、
オークに輪姦されて喘ぎながらも、
今日一日で立て続けに起きた、恐ろしい異変におののいていた。

森から戦いの声が聞こえていると思ったら、
赤毛の娘が泣きわめきながらオークたちから逃げ出した。

すぐにまた、戦いの音がして。
静かになってしばらく経つと、剣を持った男が消えていて、
代わりに剣を持った女が礼拝堂に現れた。

男の剣士は、そして赤毛の娘はどうなったのか。
みんな死んでしまったの?

いったい何が起こっているのか分からない。
村で聞いていた伝承と、実際の誘拐の進行があまりに違う。
単に一年耐えれば帰れる苦行では無かったのかと、
巫女たちは狂おしい恐怖の下で潰れてしまいそうだった。

(私たちも、死んじゃうのかな…… ああ、神様!)

古びて壊れた聖地の中で、遠い時代に人間が捨てた神に向かって、
二人の娘はか弱く祈るばかりだ。


--


「あぁ……や、優しくしてね」

レイナは礼拝堂の一番奥で説法壇に両手を突いて、
立ちバックの姿勢でオークに向かって尻を差し出していた。
本人としては何日も何週間も過ぎたような夢を見ているが、
現実の時間は川辺の決闘から、まだ半日とも経っていなかった。

男の剣士と同じく、焦点がぼやけた目つきのままで、
とても恥ずかしそうに、でもとても嬉しそうに背後のオークと語らっている。
オークはオークで違う夢を見ているようで、なかなか交尾を始めようとしない。

レイナの夢の中で、気弱な青年は初体験にうろたえていた。
仕方ないなぁとレイナは壇から両手を離し、顎と乳房だけで上半身を支えると、
指を自分の豊かな尻肉に添えて、むちっと左右に引っ張った。
白い桃の真ん中に、密を垂らした赤い肉花が可愛く咲いた。

自分で陰部を拡げるのは精神に相当こたえるらしく、
リードしているつもりであっても、レイナは耳たぶまで真っ赤に染まった。
開いた尻餅から甘酸っぱい女の匂いが広がって、
オークのペニスもようやく硬く天を向く。

オスの性器と女の性器が接触し、
レイナはぐっと目を閉じ、尻と太ももを緊張させた。
熱く灼けた硬い器官がレイナに侵入を始めた。

「はうっ……ぐ!」

ぷつっと断裂の音を添えながら、細くて狭いレイナの中に
ペニスと同じ太さの広がりが生まれていく。
鍛え上げた筋力のせいで、破瓜の痛みはレイナが考えていたより随分痛い。
たまらずレイナは尻たぶを離して、壇の上で拳を握り、突っ伏した。

「もっと、ゆっくり……くああっ!」

痛みに向き合う呼吸がととのう前に、
オークのペニスはさらに深く、さらに奥まで貫いてくる。
レイナが目を見開いて、酸欠に喘ぐのもお構いなしに、
重い亀頭はゆっくりとノンストップで膣を奥まで開通しきった。

「かはぁ……!」

痛みに震えわななくレイナの尻を、
今度はオークの大きな両手がむっちり掴んだ。
オークは指の感触を楽しみながら、性欲に腰の動きを任せて
締め付けまくる初物の肉壺を、ぎゅぽぎゅぽとしごくように犯し始めた。
童貞と交わっているつもりだったレイナとしては
いきなり真っ直ぐ一番奥までピストンされて、
こじ開けられるあまりの痛さに堪ったものではなかった。


「あぐっ、ひぎっ! イタッ、痛いってば!」
「ブフッ、ブヒィッ!」

夢の中でも青年の動きが一変して激しくなった。
すみません、すみません、でも腰が止まらないんです。
謝りながらも必死に腰を振る青年は
自分勝手であり、余裕が無く、その様子が少し可愛くもある。
男とはこういうものかと、レイナは仮想現実の中にも
妙にリアルな学習をしていた。

「あ、ぐっ! うっ、うっ……!!」

「イイゾ……シマル……ブヒィィゥ!」
ぎゅっ、ぎちっ、ずぷっ、ずぷっ

「うぐぅうううううっ!!」

股間は千切れるように痛いけど、好きな相手となら耐えられるはず。
レイナはじっと痛みを我慢しながら、人間同士のつもりで交尾を続けた。
ちなみに初体験からバックスタイルを選んでいるのは、
とうとう名前だけでなく、青年の顔まで曖昧になって
よく見えなくなってしまったからだ。


「はぐっ、うっ! うぅ〜〜っっ!!」

尻側から豚のように犯されて、
純潔が鮮血と変わってレイナの太ももに飛び散った。
痛みにうめくレイナと正反対に、
オークは処女の膣が気持ちよくてたまらなかった。
巫女たちの膣は繰り返し犯しすぎて、すっかり弛んでいたものだから、
オスにとってレイナの膣は久方ぶりのご馳走だ。

「あぐっ、あっ! はっ、激しすぎっ……ぎぃっ!!」
ぱんぱんぱんぱんっ、ぱんぱんぱんぱんっ

膣の中を蹂躙し尽くす肉棒が、どんどん硬く大きくなった。
剣士としての耐性も手伝い、レイナはそろそろ痛みを克服できていた。
彼女はペニスの形を、男と女の結合の形を膣に知り、
今まで空想の向こうにあった性交を、実体験として覚えていく。

「うっ、あっ……! くうぅ……!」
(これがセックス……!
 私の中で、私じゃない生命が脈打っている……すごい!)

自分の下腹に女の洞窟が誕生し、
ペニスを咥えて広がりながら、オスの匂いを塗り込められる。
男肉の硬さが出入りするたび、女肉はみっちりしなやかに伸び、
締まる摩擦が男の芯にも伝わって、いよいよ交尾の茎は太くなってきた。

どくんっ、びゅるるっ
「ああっ、熱いっっ!!」

膣の中にマグマが爆ぜて、レイナの総身がこわばった。
オークの腰はレイナの奥までガッチリ組み付き、もう動こうとしなかった。
腰だけが止まっていても、
ペニスは精液を吐き散らかして膣の中で暴れ回った。

まだまだ痛みの方が大きいセックスだけど、
膣内射精の熱感だけは、レイナにもはっきり気持ちが良かった。
女を震わせながら深く沁みこむ生命の快楽だ。

どく……どくんっ……
「あっ、あっ……はぁぁーーーっ!!」

この日のために生まれてきたのだとばかり、
子宮は精液の感触と触れ合って、
痺れるような悦びをレイナの中で沸騰させている。
指が折れそうなほどに手の平を握りしめ、膣は万力の強さで締め付けながら、
レイナは子宮に爆ぜる熱い悦びを、のけ反りながら堪能していた。

(はあああ……これで私も、大人の女に……!)

「もっともっと」とせがむ風に、レイナは愛らしく尻を持ち上げて、
股に刺さったままの男根から甘美な精液を搾り出す。
オークの射精は人間より豚の量に近くて、
一回の交尾で牛乳瓶二、三本分の量をメスに注ぎ込む。

「あ……おっ……!
 私の中が、熱いので一杯になっていく……!」

レイナの内太ももに白濁液が垂れ落ちて、
破瓜の血筋を上塗りしていく。
レイナの下腹では凶暴な精子が億万と泳ぎ回って、
見事に処女の卵子を貫いていた。

「はうっ……今、何かが……!」

子宮に小さな宇宙が生まれたような衝撃を感じてしまい、
思わずレイナはのけぞり、お尻を跳ね上げた。
じんわりと疼く”新しい脈動”が、下腹の中から指の先までレイナの全身を支配した。

「あっ、うああーーっっ!?」

肉を内側から満たす喜びの中で、彼女の心もまた生まれ変わりつつあった――
この日、レイナはまさに女になった。





3-3

レイナにぶん殴られたあげく金的までもらった男剣士は、
いたく惨めな気持ちで森の小道をゆっくり歩く。

背中には赤毛の娘をおんぶしている。
まだ若いのに、身も心も疲れ果てているようだ。
彼女はほとんど気絶に近い状態のまま、男の背中で深く眠っていた。

男はもう魔剣の支配を受けていないが、操られていたことにも気付いていない。
幻の霧は急に晴れ、どこまでが夢か現(うつつ)か曖昧なまま、
彼はその両方を現実だと思って混乱していた。
今日は何年何月の何日だろう。
さっぱり思い出せないけれど、男は男なりに状況を整理し始めた。


王都に向かう一人旅の道中で、男はオーク退治を頼まれた。
「任せておけ」と二つ返事で森に飛び込み、
寝惚けたようなオークを斬り伏せていく。

彼はあっさり礼拝堂に辿り着き、あっさりと魔剣の支配に捕まった。
そこからレイナに敗北するまで、十日ほどはずっと夢の中に居た。
夢の中では、たっぷり一年ぐらいの時間が過ぎていたらしい。

夢の中で男剣士はオークを全て討ち取って、
村の英雄となり、豚牧場の地主として裕福な日々を送っていた。
ある日、豚泥棒に入られて、剣をひっさげ追いかけてみれば、
泥棒の正体は素っ裸の雌オークであるようだ。

サクッと退治するつもりで男は剣を抜き放つ。
ところがどういうわけか、雌のオークは竜のような強さであった。

オークに負けて大地に倒れ、
気付けば男剣士はあの陰気な森の中にいた。
目の前には全裸の女剣士が立っている。
股も隠さず、下から見上げる男には女の陰部が丸見えだった。
その痴女が、なんと憧れのレイナ=ヴァンスだと来たものだから、男は大いに驚いた。
状況から察するに、彼女はどういうわけか敵側であり、
つまりオークの味方をしているらしかった。

(俺が退治したはずのオーク共も、なぜかまだ森に居た。
 討ち洩らしていたのか、別の群れがやって来たのか。
 あるいは……レイナ=ヴァンスが森に連れ込んだのか。

 ――ヴァンス家がオークを使って、人さらいだか豚さらいだかをやっている?
 いやいや……金持ちのやることはよく分からんけれど、
 さすがにそんな事はしないだろう)

どのみち、確実な結果は一つだけ。
男はオーク退治に失敗したのだ。

相手がレイナではお手上げだった。
そもそも男剣士はクイーンズブレイドに熱狂していた一人で、
ヴァンス家が天下を取った結末を見て、
ぜひ王都で仕官しようと故郷(くに)から出てきた身の上だ。
レイナに勝てるとは思っていないし、倒したいとも考えてない。
色々な意味で、男は大失敗だった。

「ううっ、せめて巫女の一人だけでも救えて良かった……
 丸っきり成果なしでは、あまりに俺が可哀想だった」

けっきょく夢と現実の整合が取れないままの結論だ。

赤毛の娘は男の背中に担がれて、屍体のように眠っている。
頬に残った涙の跡が不憫であった。
オークに犯され、孕まされ、涙が乾く暇もないほど泣いたのだろう。

男は赤毛の娘を村の至近まで送り届けると、自分は村に寄らず立ち去った。
「村長に合わせる顔がない」
それだけ言って、彼は悄然と王都の方面に消えてしまった。


--


「あっ……んっ、あんっ……」

レイナは幸福感に蕩けながら、夢の中で甘い喘ぎ声を上げている。
初めての膣内射精を引き金にして、
彼女の中で女の機能が次々目覚めて働きだした。
四つん這いで、後ろからがっちりオークと繋がって、
珠のような汗を肌にちりばめながら、一心不乱に腰を振る。

「あうっ、あ……! 固くて、太くて、すごいぃぃ!」

レイナにとって、何もかもが新鮮な喜びだ。
むんと鼻から吸い込むオスの匂いは、垢っぽくて酷く臭い。
だけど、もうもうと嗅いでいるうちに、
もっと嗅ぎたい、嗅ぎ続けたいと思わせる、麻薬じみた中毒性を含んでいた。
なんと興奮する匂いだろうか。
オスの体臭が肺に染み込むたびに、
レイナの乳首が、子宮が、内側から溶けそうになる。

「んはっ、だめっ……この匂い、高まり過ぎる……!」

恍惚とした表情でオーク達に囲まれて、
レイナは男剣士が務めていた立ち位置を引き継いでいた。
魔剣に導かれながらオーク達を管理して、繁殖と屠殺の手伝いをする。
有事の際には魔剣の使い手として外敵を討つ。
さらに、折角のうら若き女性なのだから、
オークを産む巫女の一人として子宮で生命を育てつつもある。

ずっちゅ、ずちゅっ、ずぷっ
「あんっ、あっ……! もっと……!」

今では破瓜の痛みもすっかり消えて、レイナは純粋に性を楽しんでいる。
先走りと愛液を飛び散らせ、大きなペニスが女の真ん中を貫くと、
膣は嬉しそうに男を頬張りながら、しなやかな強さで締め付け返す。
レイナの秘肉は見事な名器に成長していた。

「あっ、ふぁっ……あ、あ!」

誰と、どこで、なぜ繋がっているのかは知らない。
レイナは知りたいとも思わない。

彼女は自分でも腰を動かしながら、女の肉で男の肉にしがみつく。
媚孔の中が男の柱に押し潰されて、肉汁のような快感がジュンと滲み出る。
膣でペニスを噛めば噛むほど、オスの味が、痺れる喜びが下半身に染みていく。
レイナは目を閉じ、意識を膣に集中させて、激しく湧き出る女の快楽を堪能していた。

(こんな気持ちの良いことが在っただなんて……!)

汗にまみれ、愛液とよだれの糸を引きながら、
もち肌のお尻を男に押し付け、熱く柔らかく密着させる。
オークもいよいよ尻をすぼませ、一番奥に刺さった姿勢で灼けつく精液を搾り出す。

「ブフッ! ツヨい子、ウメ……!!」

どびゅっ、びゅるるっっ
下腹に命の種が広がって、レイナの尻も震え始めた。
精虫の一匹一匹が子宮粘膜を熱くほじくる。
刺激はすぐに何億倍もの束となって渦を巻き、
レイナを真っ白な絶頂の中に昇らせていく。

「ああっ! ああぁーーーーーーっっ!!」

快楽に絶叫しながら女体が大きくのけ反った。
豊かな乳房がブルンと跳ね揺れ、光る汗をまき散らす。
わななく太股の間に盛大な潮をしぶかせながら、
彼女はためらいも無い自由な気分で”生きる喜び”を味わっていた。


--


魔剣は長椅子のような古代の残骸に立てかけられて、
鞘と刃の隙間に緑の光粒をこぼしながら、じっとレイナたちの夢を監督している。

剣には、与えられた使命があった。
悪を切り裂き、人の世を救うために造られたのだ。
そしてクイーンズブレイドが終結した日に、
ついに魔剣が斬るべき悪は生まれた。

王都で発生した悪の中核は、日に日に黒く成長している。
倒さねば、正義を実行しなくては。
その為にはオークの命を大量に吸い、刃の中で凝縮させて、
魔剣に与えられていた本来の威力を復活させる必要がある。

女がオークを産んで殖やして、魔剣が片っ端からその血をすする。
礼拝堂では二人の村娘と一人の美闘士が母胎になって、
下腹部でせっせとオークの胎児を育て、繁殖に向かって準備している。

魔剣はまだオークの肉が足りないと考えている。
村からあと何人か、母胎となる娘を連れてきて、
人類平和のために、数年ここで働いてもらうつもりでいた。
でもその前に、レイナの支配を安定させて、
最初の出産だけは丁寧に終わらせるつもりであった。

「あっ、あっ! お腹が……熱いわ!」

うっとりとよだれを垂らすレイナの子宮に、五つの胚芽が命を宿し、
女の内壁に固く張り付きながら熱い脈を打っていた。
胎内が新たな精液で満たされるたび、
豆のように小さな命が一回りずつ大きくなって成長していく。

種はしっかり付いている。
順当に発育すれば三ヶ月後に、
レイナは元気な子豚たちを産んでくれることだろう。





3-4

赤毛の娘が生還し、麦の村が明るい色に染まった。
そして一週間が経ち、二週間経ち、
村にだんだんと残念な空気が漂いはじめて、
一ヶ月後にはみんな下を向いてしまった。

「結局ダメだったのか」
「いや、一人は救ってくれたのだから」

失望と擁護の賛否両論。
いったい、森で何が起きているのか良く分からない。
唯一の証人である赤毛の娘は、ショックで引きこもっているらしい。

「大丈夫だよ、きっと今に帰ってくるよ!
 レイナは……レイナなんだぞ!」

クイーンズブレイドの勇姿を追い続けた少年たちは
強くレイナを信じた。
目には悔し涙が浮かんでいるから、ただの意地だったのかも知れない。
そんな幼い心を汲んで、村長はもうしばらく待つことに同意した。

信じたいのはみんな一緒だ。
何しろオークは大勢なのだから、長期戦もありうるだろう。
ふらっと補給に戻ってくるかも知れない。
むしろもう少し結論を待つのが普通なのだろうか。
頑張れ、レイナ。





--

一方レイナは……オークとの性交を頑張っていた。

礼拝堂にいる全ての女は孕んでいるが、
オークとしては、狩猟以外にはやることもない。
すでに種が付いていることなどお構いなしに、
社にいる間はペニスで牝孔と繋がりっぱなしだ。


「あんっ、んむっ、ちゅぶっ」
五、六頭のオークが押しくらまんじゅうをする真ん中で、
レイナは全身を使って男根を味わっている。

膣で一本、口で一本、両手で二本を相手しながら、
汗にまみれて腰を振る。
オークの太い腕に片足を持ち上げられ、乳房やお尻を取り合いされて、
レイナの女体は半分宙づりのような状態だ。



魔剣は相変わらず説法壇の上で、
寝そべるオークに刺さって血を吸っていた。

魔剣としても、別に乱交を止める理由がない。
女の幸せは交尾と出産。
剣の目的は万世を生きて悪を斬ること。
家畜(オーク)の存在理由は、年中発情しながら繁殖し、
飼い主に血肉を提供し続けること……だと聞いている。

すなわち現状、礼拝堂にいる全ての者は、
あるべき姿に満たされているはずだ。



「んちゅっ、ちゅぽっ……あんっ! む、胸も?
 あっ、あっ、ああぁーーーっっ!!」
 
ペニスだけでなく、オークたちの指もレイナの肉をほじっている。
両の乳房は左右に引っ張られ、パン生地のようにこねられる。
尻の餅肉も野太い指に揉みしだかれて、
汗で滑りながら目まぐるしく形を変える。

そのうちオークの一頭が、親指を力いっぱい、女尻のすぼみにねじ込んだ。
「むぐっっ!!? ん、んごおぉっ!」

排泄孔から電流のような刺激に打たれ、レイナがぶしゅっと潮を吹く。
ペニスを咥えたまま叫んだせいで、口の中でオークが震え、射精をはじめた。
オス臭いミルクを無理に飲まされ、
それでまたレイナが興奮し、熱い膣もギュウウと締まった。

今度は挿入していたオークが堪らなくなり、下の口で中出しだ。
レイナは全身をオスに穢された勢いで、
乳首と陰核をペニスのように勃起させながら盛大に絶頂した。





--

そんな彼女の、夢の中では。

甘いマスクの金髪お兄さんなど跡形もなく、
レイナの前には肉色のヒドラのような、おぞましい触手生物が蠢いている。
大小様々な触手の群れが、
レイナの女肉をもてあそび、全ての女孔を貫いていく。

「あっはぁ!? お尻なんて入ってこないで!」

敵対しているという様子ではなく、レイナは自ら赤い触手に身を任せていた。
一般常識としてのセックスは想像できても、
レイナが輪姦や乱交という概念を知らないせいだ。

何人もの男に乳やアナルまで同時に嬲られるイメージが湧かず、
夢の中はどんどん幻想的な虚構に進化し、
最後は触手に落ち着いて、不条理な数の肉悦を無理やり理解していた。
それは純粋な肉悦の、心象的な具現化だった。


[2012/5/10]


「あっ、あっ、あっ!! そっ、そこ気持ちいい……!」
触手の先端が自由自在に膣を犯した。
子宮口からGスポットまで往復するようにゴシゴシ擦られ、
レイナは快感に尻を震わせ、だんだん高く持ち上げる。

しかし蕩けるレイナを叱り飛ばす声が、夢の頭上から飛んでくる。

「レイナ!レイナよ!
 それしきに乱れていてヴァンスの領袖が務まるか!
 この乱世の上に立てるのか!」
「きゃーーっ!!? ち、父上!?」

いつから見られていたのだろうか。
5メートルはあろうかという触手ヒドラのてっぺんに、
ヴァンス伯爵が腕組みしながら直立している。

「この程度の試練、涼しい顔で耐えきって見せよ!」
「申し訳ありません……んあっ! ああっ!!」

そ、そうだ。
これは娯楽ではなく試練……だったっけ?
ならば快楽に流されてはいけない。集中だ。



(……く! 我慢よ!)

目を閉じて頑張りだすと、今度はレイナの正面から、
別の知った声がレイナの集中を乱そうとする。

「レイナさん、どうしたのですか?
 せっかく”おいるえすて”とやらに路銀を割いたのですし、
 くつろいで楽しまなくては損なのでは」
「トモエ……?」

目を開けてみれば、目の前では武者巫女が裸で寝台に寝そべっている。
風呂場のようなタオル姿で、全身をぬるぬる触手に奉仕され、
気持ちよさそうにそれを受け入れていた。

そう言われると、自分がトモエを美容施設に誘っていたような気もした

父の試練とどっちを優先すべきなのだろうか。
決断を促すように、オイルで光る触手がトモエとレイナに巻き付いて、
豊満な四つの乳房をニュルリニュルリと絞りこすった。

「ああっ! も、もっと強く握って……!」
父の試練にはあまり目的意識が湧かなくて、あっさり快楽へと軍配だ。
レイナの夢からヴァンス伯爵が消えさった。



「そうそう、お姉ちゃんは何事にも縛られないで、
 自分が気持ちいいと思うことだけを選べばいいのよ」

エリナが現れ、レイナの唇を奪った。
即座に舌がねじ込まれる。
なぜかペニスのような形をしているエリナの舌が、
レイナの口を一杯にしながらピストンをはじめた。

「んっ……! んちゅ……んちゅっ」

三つの肉孔をかき回されてされて、レイナの全身が快楽に火照った。
刺激は外側だけじゃない。
子宮の中から五つの鼓動が熱く疼いて、レイナの生命を高潮させる。
頭の後ろ半分が白く痺れて、絶頂に近付いていく。



『でも……それじゃあ獣と同じだぜ。
 あたしが義賊をやっているのは、自分(てめー)以外の誰かの為だ。
 レイナ、お前はお前の為だけに生きようってのか?
 そんな人生、あとに何が残るんだ?』

『なんにも残らなくったって良いじゃないのさ。
 どうせアンタら人間は百年そこらで死んじまうんだ。
 せめて気持ちよく生きなきゃ救われないよ』

頭の中を、色んな人の声が通り抜けていく。
どれもが正しいと思えるけれど、同じ意見は一つもなかった。
だから本当に正しい答が決められない。

『迷うことは無い、ただ正義を行なえば良いのじゃ。
 人間種は一致団結し、正義に向かって永遠を生きるべし』

そこに、全く聞き覚えの無い声が混じった。
どこか狂気を感じる、老いた男の声だった。
レイナの夢だというのに、どこから入ってきたのだろう。

『魔が生ずれば、一刀に斬り裂いてこれを討ち、
 死に追われれば、不死を求めてこれに克つべし。
 その崇高な目的の為に、女はオークを孕み、
 オークの血は生命の永遠を紡ぐ糧となるのじゃ。

 だから儂は剣を打つ。
 お前が剣じゃ。
 お前は目的のある道具じゃ。
 お前の目的とは、世界を救うことなのじゃ!』

その声は、ずいぶん遠い過去の時代から聞こえた気がする。
触手が激しく膣に出入りして快楽の激流を生むために、
いまいち集中して声の言葉を聞き取れないが、
レイナとしては最後の一言だけ割と気に入っていた。





3-5

「はぁっ……うっ、ぐうぅっ!!」

苦しい息み声が聞こえる中で、
レイナの股間からブバッと破水が始まった。
お腹の中の赤ちゃんたちは、きっかり三ヶ月で
外の世界に向かって冒険を始めた。

レイナは礼拝堂の説法壇にもたれながら、
大きく股を開いて床にお尻をついている。
乳房から股間まで裸にしていて、その真ん中にあるヘソ回りが
見事な臨月腹へと膨らんでいた。

「はっ、はっ、はぁっ……ふううっ!!」

石造りの壇は床に組み込まれてがっしりしているようだ。
なのでレイナは足を踏ん張り、背中で思いっきり壇を押しながら
全力でお腹に力を集中させた。

全身に滝のような汗を浮かべて、
もうずいぶん長くこの格好で踏ん張っている。



周囲ではオークたちが、レイナの身体を安定させようと手を貸している。

相変わらず寝惚けたような目つきながらも、
意外なことに、オークたちは非常に友好的な雰囲気だった。

「レイナ……ウメ……」
「タエロ……キバレ……」

巫女たちと違い、レイナは(操られていたせいで)
恋人のようにオークに優しくしてくれた。
おかげで次第にオークたちは、夢うつつのうちにレイナを仲間と認識し、
異種族でも肉便器でもなく、礼拝堂のアイドルとして大事にしていた。

オークたちはずっと夢の中に居る。
今ではその夢に、笑顔のレイナも登場するようになっていた。



「ぐうううっ、ああああっっ!!」

ひときわ大きいかけ声で、子宮が胎児を押し包む。
赤子の一人が、胎内から産道にめり込んだ。
レイナの大陰唇が内側からめくれ返って、膣が急に大きくなった。

輪ゴムのように丸く広がった彼女の生殖器から、
赤黒い肉の塊がせり出してくる。
レイナの初子だ。

「あぐうううううっ!!」

もうひと息と、レイナがさらに身をよじる。
腹筋から大臀筋まで動員し、
全身の筋肉を使って子宮の中身をひりだしていく。
膣は限界まで拡張しながら、ゆっくりと新たな生命を送り出す。

「オギャアッ!! オギャアアアアアアアッ!!」

間もなく太古の聖堂に祝福を受け、
人の子によく似た産声が元気に響き渡った。





--

魔剣としては、実に順調なスケジュール消化だ。

二日ほど産後の様子を見ると、
母子ともに非常に安定している。

剣はレイナという名馬を御しながら、
さっそく麦の村へと出張し、前からの手はず通りに、
新たな苗床となる巫女を捕まえようと行動を始める。

[2012/6/24]




--

レイナはブスッとふくれ面で森を歩いていた。
背後には屋敷に詰めている衛兵たちを引き連れている。

せっかく五つ子もの子宝を授かって、いまが可愛い盛りだというのに
子供を寝かしつけていた途中で
お仕事の呼び出しを食らってしまった。

牧場に泥棒が入って豚を盗んでいったので、
泥棒を討って豚を連れ戻して来いとの、ヴァンス伯爵の仰せである。
どこかで似たような話を聞いたばかりの気がする。
そもそも直轄の豚小屋なんて敷地の中にあったっけ?

あったにせよ無かったにせよ、いくら女戦士とはいえ
赤子と寝ている母親に命じるような話だろうか。まったく。



胸には一人だけ赤ん坊を抱いていた。

兄弟の中でひとり、すぐにグズつく末っ子だ。
残りはお屋敷に寝かせてあって、
帰ってくるまで使用人たちに面倒を頼んだ。
さっさと仕事を片付けて、一秒でも早く帰りたかった。


[2012/6/1]


「ボクも早く、お兄ちゃんたちと一緒にお昼寝したいわよね?」

胸の愛子を相手に愚痴などこぼす。
レイナ譲りの金髪で、男の子だけど、
エリナが小さかった頃にとても似ていた。

あの頃のエリナの横顔は、世界で一番可愛いと思っていた。
だけどどうして中々、自分の息子も負けてはいない。

赤ちゃんはいま、はだけたままにしている乳房にしがみつき、
ときどき思い出したように、母親をじっと見つめたりしていた。
あまりに可愛すぎて母親が鼻血を噴きそうだった。

この子が可愛いだけに、他の四人の寝顔もやたら心配してしまう。
泣いていないだろうか。
レイナの歩幅は、ますます急いで大きくなった。

左手でホカホカのわが子を支え、
右手には安物の剣を引っ提げている。
豚泥棒なんかには、こんな得物がお似合いだ。
そう言って誰かに渡されたんだけど、それが誰だったのかはとっくに忘れた。



やがて泥棒のアジトが見えてきた。
悪党の根城というより、ただの農村にしか見えないが。

――きっと、ただの農村なんだ。
そして犯人はただの農民だろう。
家畜を盗まねば立ちゆかないほど貧しいのだろうか。

生まれついての悪人など居ないと思う。
みんな理由があって罪の世界に育つのだけど、
生まれたばかりの時には、いま胸にいる天使のような赤子と同じ存在のはず。

熱くて小さな手の平で、息子がキュッとレイナの乳房を掴んだ。
じつに愛おしい感触だ。

「はいはい、分かってますよ。 
 お母さんは誰も怪我をさせたりしないから。
 安心してて、坊や」

母親になってから、世界がずいぶん優しく見える。
すべての生命は同じように始まっているはずだと思うと、
性善説(※)こそ真実であるような気がしてくるのだ。

悪党相手であっても、出来るだけ穏便に済ませよう。
自分の力量ならそれが可能なはずだ。
強くて良かった。
味方だけでなく、敵まで守れる強さがあって良かった。

そんなことを考えながら、レイナは家来たちと一緒に
泥棒の村へと踏み込んだ。

  ※性善説=素の状態の人間は善であり、外的要因によって悪を含んでいくという説





--

麦の村は、驚愕とか絶望とか、憤慨とか悲嘆とか、
とにかくもう上から下まで大混乱な一日だった。

レイナが――オークを連れて攻めてきた。
あげくに若い女を一人さらって、森へと帰ってしまった。
どう見てもオークの苗床を、さらに増やすつもりだろう。

何の約束をかわしたのかは知らないが、
レイナはオークたちとグルになってしまったのだ。
大事そうにオークの赤ん坊を抱いたままだったのが、とくに絶望的だった。
レイナが産んだ子なのだろうか。

村の男衆は束になって挑んでみた。
だけどレイナ一人相手にかすり傷一つ負わせられない。
オークは後ろに下がらせたままの余裕を見せつけられて、
屈辱の完封負けを喫してしまった。

せめてもの救いは死者やけが人が出なかった事か。
子供を抱いたままのレイナは、片手だけの攻撃で、
村の男たちを片っ端から、一撃のもとに気絶させてしまった。
腕前だけは、まさにうわさ通りの強さらしい。

「泥棒なんて辞めて、真っ当な仕事に戻りなさい。
 ヴァンスの農地に来れば、いくらでも職があるわよ。
 じゃあ……私の家のブタは返してもらうわね」

意味の分からない捨て台詞を村に残すと、
レイナは若い娘を一人、本当に豚のように捕まえて、
悠々と森に帰っていった。



村の人々は膝を折って地面に崩れる。
オークを産んで殖やすまでもない、
次に攻めてこられたら、レイナ一人で村が制圧されるだろう。

「何でこんな事になったんだ……!」
「おっ、お前ら嘘を言っただろう!?
 レイナって女はトンでもない奴じゃないか!」
「ち……違うもんっ! レイナは……レイナは……!
 う、うぐ……ぐすっ」

特に立場を無くしてしまったのは、レイナを信じた少年たちだ。
あまりの結末に、大人たちですら半泣きなのだ。
村の衆は少年たちを叱り、なじりつけ、
八つ当たりに近い負の感情を浴びせまくった。

少年たちはポロポロと悔し涙をこぼしていた。
でも子供の頭では反論できない。まったく訳が分からない。
黙って震えながら泣くしかなかった。

自分より弱い立場の涙を見ると、大人たちの感情も落ち着いてきた。
今度は絶望に身を震わす少年たちが可哀想に思えて、
「レイナのことは忘れるんだ」と彼らをなだめ始めた。



そんな村の広場の様子を、村長だけは黙って見ていた。
しかし彼女は、他の大人たちと正反対のことを考えていた。

「お前たち、こっちにおいで。
 ……クイーンズ・ブレイドについて、美闘士とやらについて、
 もう少し詳しく聞かせてくれないかい」

村人たちも少年たちも驚いたけど、村長はとても冷静だった。

情報が足りない、いくら何でも流れが不自然すぎる。
ガイノス帝国が震撼していた一年に、
村の外で何があったのかを知らねばならない。
そう村長が説明すると、今度は村人たちも納得をした。



子供たちは心をダメにする直前まで落ち込んでいたが、
村長に落ち着いた言葉をもらって、徐々に涙を少なくしていった。

ここぞとばかりに少年たちは、自分たちが知る限りのすべてを語った。
クイーンズブレイドに、ガイノス帝国に生じていた
色々な摩訶不思議を大人たちは改めて聞き知った。

人間を操る魔杖フニクラや、魔に魅入られし女王アルドラの逸話など、
レイナの様子を説明できそうな近似例が話の中にいくつかあった。

しかしなんと言っても大人たちを仰天させたのは、
流浪の戦士の本名だった。

レイナ=ヴァンス!?

今や帝室となった大ヴァンス家の次女にして、
家督継承権第一位の保有者である。
要するに、彼女は次の女王ではないか。



さすがにこれは、村長も腰を抜かしそうだった。
村で起こった異変について、即座に帝都に知らせる義務がある。
すでに遅きに失しているが。

不敬や不手際で、罪を着せられるやもしれない。
軍隊がやってきて政争に巻き込まれたり、村ごと焼かれてしまうかも知れぬ。
かといって黙殺などしても、本人がここに来ている以上はそのうちバレる。
バレたら即座に村ごと絞首台に架けられそうだ。

「い……いつの間にやら、
 完全に詰んでおったんじゃのう……」

いずれにせよ、レイナとオークを止め立てする手段が無い以上、
事態を放置すればオークに滅ぼされそうな気配でもある。
真っ青な顔の村長としては、
今から取るべき選択肢は一つしかなかった。



一時間後、帝都ガイノスに向けて早馬が出た。
村が所有する、数少ない貴重な馬だ。

使者は一週間かけてガイノスに着き、レイナにまつわる一報をもたらした。

そこからどの道をどういう風に走ってきたのかは知らないが、
四十時間後には、ヴァンス家近衛隊長・エリナ=ヴァンスが
血相を変えて村の酒場に陣取っていた。





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[3-1 2011/12/24]
[3-2 2011/12/24]
[3-2 2011/12/25 一部加筆]
[3-3 2011/12/30]
[3-4 2012/1/15]
[3-5 2012/1/21]





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